俯瞰的格闘技ルール論 2000年10月29日版 0.はじめに 俯瞰的格闘技ルール論は、1〜10から成り、2〜8の本文は、VTとプ ロレスの対比により、ルール違いを認識した上での最強論を述べています。 これらの文章はプロレス的な流れから論じられていますが、私個人はプロ レスファンであり、かつ格闘技ファンであり、8で述べられているようにす べての格闘技、U系などの勝敗を重視したすべてのプロレスが、いい意味で 影響を受け合うことによって、技術的に理想へと向かうことを望んでいるこ とを、ここでお断りしておきます。 なお、ルールにおいて、見落としや解釈ミス、変更などにより間違いがあ あるかもしれませんが、その場合はご指摘してくだされば幸いです。 1.俯瞰的ルール一覧表 P K 肘 投げ GDD GD ホール KW RE KO 相撲 △ × × ○ − × − − − 柔道 × × × ○ − ○ − △ − − レスリング × × × ○ − ○ ○ − − − 柔術、CW、サンボ × × × ○ − ○ × ○ − − (以下、立ち技格闘技) ボクシング ○ × × × − × − − − ○ テコンドー(WTF)× ○ × × − × − − − ○ K−1 ○ ○ × × − × − − − ○ キック、ムエタイ ○ ○ ○ × − × − − − ○ SB、散打 ○ ○ ○ ○ − × − △ − ○ 掣圏道 ○ ○ ○ ○ ○ × − ? − ○ (以下、打・投・極あり) プロレス △ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ × リングス(旧) △ ○ ○ ○ △ ○ × ○ ○ ○ (以下、ロープエスケープなし) リングス ○ ○ ○ ○ △ ○ × ○ × ○ 修斗 ○ ○ × ○ ○ ○ × ○ × ○ パンクラス ○ ○ × ○ ○ ○ × ○ × × PRIDE ○ ○ △ ○ ○ ○ × ○ × × 修斗(VTJ) ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ × ○ UFO ○ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ × ○ ・略語の説明 P −−パンチ K ーーキック GDD−−グラウンドの相手への打撃 GD −−グラウンド KW −−関節技 RE −−ロープエスケープ CW −−コンバットレスリング SB −−シュートボクシング 表にない格闘技(資料なし):パンクラス(旧)、マーシャルアーツ、ドラッガ 2.俯瞰的VT論 VT(何でもあり)もルールのある1つの格闘技に過ぎない。これは間違 いではないが、的を射ているとは言えない。 それは1の表を見てわかるように、VTはあらゆる格闘技を含んでいるか らである。ここで言う「含む」とは、ルールの含みではなく、技の含みであ る。 しかし、それはプロレスも同じであるが、VTはエスケープなしの1本勝 負であり、オープンフィンガーグローブを使った打撃、ピンホールをなくす、 リング上でのショー的要素をなくすといった点で、より競技的で、かつより 実践的であると「言われて」きた。 ところが競技と実践というものの性質は相反する要素が存在する。それは 選手の安全性である。実践に近づけようとするなら、できるだけルール上の 制約は廃さなければならない。しかし、ルールをなくせばなくすほど、選手 の危険性は増してしまう。 結局、VTにはいろいろなルールができ、本来の何でもありの意味合いは 薄れ、開催する団体ごとに細かい部分でのルールの差ができることになる。 3.俯瞰的プロレス論 ところがVTの存在によって、その存在価値が揺らぎ始めた格闘技が存在 する。それはプロレスである。(※プロレスが格闘技であるかは意見がわか れるところであるが、それは定義によって異なるため、ここでは広い意味で 闘いによって勝負を決めるもの<たとえルールに曖昧な部分があっても>と いう意味とする) それまでもっとも実践的で最強の格闘技であると自負していたプロレスラ ーが、VTのリングで柔術家に次々と敗れていった。 しかし、それはパンチあり、ロープエスケープなしの異なった競技である から負けるのは当然であり、ルールの違いによるものである、といえばそれ までである。 しかも、柔術はVTを念頭に入れて、長年かけて発達してきたものである から、他の格闘家が適わないのは当然である。 4.俯瞰的ストロングスタイル論 しかし、それで話が収まるはずがなかった。 なぜなら、本来プロレスとVT(何でもあり)は同一のものであり、ショ ー的要素を廃したシュートマッチでも、プロレスラーは最強であったからだ。 現に新日では、道場でのスパーリングでは、レスリングや柔道出身者を、 プロレスラーは全く寄せ付けず、完全に子供扱いしていた。つまり、新日に は、道場神話というものがあったのだ。 そして、その強さを試合で見せるのが真のプロレスであり、ストロングス タイルであった。 その強さを他の格闘技との相対性において証明したのが、異種格闘技戦な のである。 5.俯瞰的異種格闘技論 プロレスは、プロフェッショナル・レスリングではない。レスリングの要 素を持った全く別のものである。しかし、技術がレスリングと全く別物であ るとはいえないことに注意する必要がある。 レスリングの技術をベースにして、打撃や投げ、関節技に対応できるよう な技術体系がストロングスタイルであるから、必ずしもその1つ1つにおい てスペシャリストであるとは限らない。 しかし、各技のスペシャリストに対し、その相手の弱点を突くことによっ て、勝利する。それが異種格闘技戦において、猪木が勝利してきた理由であ り、プロレスが総合格闘技たる理由である。 6.俯瞰的総合格闘技論 しかし、プロレスは完全な総合格闘技とはいえない。なぜならば、拳によ るパンチ、チョークスリーパーが禁止されているから、それも含めて練習し ている総合格闘家に対しては、不利ということになる。 さらに、プロレスはロープエスケープフリーのルールであるため、なしの ルールのように一回のミスが命取りになることを防ぐような隙のないグラウ ンドテクニックが要求されていないからである。 それによって、VTにおいてプロレスラーは柔術家に寝技で敗れ、プロレ スにおける格闘技ルール(グローブ着用によるパンチ)では、パンチ一発で 形成が逆転されるということが起こるようになった。 7.俯瞰的最強格闘技論 しかし、プロレスラーが打撃に対策をし、グラウンド技術もしっかりと身 につけることによって、その体格や打たれ強さ、脅威的なスタミナによって、 プロレスの最強神話は復活する。 そして、それは桜庭、藤田、小川らによって、果たされようとしている。 8.俯瞰的格闘技融合論 しかし、格闘技は進化し続ける。 例えば、柔術家が打撃の技術及び打撃との連携による倒す技術を身につけ ることによって、完成されたその寝技の技術はますます活かされることにな る。 あるいは、アマレスラーが、打撃にタイミングを合わせたタックルをマス ターすることによって、グラウンドでの打撃や首固めなどのギブアップをと れる固め技を活かすことができる。さらに、関節技を覚えることによって、 その技術は完璧へと近づいていく。 そして、打撃系格闘家も、グラウンドでの防御及びスタンドに持っていく 技術によって、その打撃を活かすことができる。 つまり、打・投・極のすべてに対応できる者、それぞれの技術における防 御ができ、それに加えて自分の格闘技に有利な戦いにもっていける者が勝利 するわけである。 これこそがヴァーリ・トゥーダーの目指すところであり、UWFの系統が 目指した理想であり、プロレスの本来の形なのである。 そして、より実践的な意味での最強を目指す格闘技の技術は、時代の流れ とともに、理想形へと融合していくのである。 つまり、VTとプロレスは「本来」同一のものであり、ショーマンスタイ ルを捨て、理想のプロレスを追求したUWFの流れは、本来のプロレスの姿 へと回帰していくのである。 9.俯瞰的ルール一覧表2 − プロレス(新日本) − 試合時間 10分〜無制限(延長なし) ランキング なし グラウンドポジション ルール上の区別なし 階級 ヘビー(100kgより上)、ジュニアヘビー(100kg以下) 勝敗 ○ ギブアップ × KO(10カウント) × 判定 ○ 膠着状態のブレイク ○ ロープエスケープ ○ リング外エスケープ(19カウントまで) 反則 × 金的攻撃 × 目潰し ? 噛みつき × 髪を掴む × 喉を掴む、喉への打撃 △ 指関節(×1本) ○ ロープを掴む ○ 拳打ち(オープンフィンガーグローブ) ○ 頭突き △ 肘による打撃(×顔面) △ 膝による打撃(×顔面) ○ 後頭部への打撃 ○ 脊髄への打撃 × つま先蹴り ○ ヒールホールド ○ グラウンドポジションへの打撃 ○ グラウンド同士での打撃 その他 ○ 3カウントピンホール ○ 反則4カウントまで − リングス(旧ルール) − 試合時間 20分(延長なし) or 3分5ラウンド(延長1ラウンド) グラウンドポジション ? ランキング チャンピオン、1〜10位 階級 なし 勝敗 ○ ギブアップ ○ KO(10カウント) ○ 判定(ロストポイント、差がない場合ジャッジ、3名中2名以上) × 膠着状態のブレイク ○ ロープエスケープ(最大3回、1R最大2回) × リング外エスケープ 反則 × 金的攻撃 ? 目潰し ? 噛みつき ? 髪を掴む × 喉を掴む、喉への打撃 × 指関節 × ロープを掴む △ 拳打ち(首から下) △ 頭突き(首から下) ○ 肘による打撃(パッド着用) ○ 膝による打撃(パッド着用) ○ 後頭部への打撃 ○ 脊髄への打撃 × つま先蹴り × ヒールホールド × グラウンドポジションへの打撃 △ グラウンド同士での打撃(首から下) − リングス − 試合時間 2ラウンド(10分・5分) or 2ラウンド(15分・5分) グラウンドポジション ? ランキング チャンピオン、1〜10位 階級 なし 勝敗 ○ ギブアップ ○ KO(10カウント) ○ 判定(3名中2名以上) ○ 膠着状態のブレイク × ロープエスケープ × リング外エスケープ 反則 × 金的攻撃 ? 目潰し ? 噛みつき ? 髪を掴む × 喉を掴む、喉への打撃 × 指関節 × ロープを掴む ○ 拳打ち(オープンフィンガーグローブ) △ 頭突き(首から下) ○ 肘による打撃(パッド着用) ○ 膝による打撃(パッド着用) ○ 後頭部への打撃 ○ 脊髄への打撃 × つま先蹴り × ヒールホールド × グラウンドポジションへの打撃 △ グラウンドの同士での打撃(首から下) − 修斗 − 試合時間 5分2ラウンド or 5分3ラウンド(延長なし) ランキング チャンピオン、1〜7位 グラウンドポジション 足の裏以外が接地 階級 ヘビー(85kgより上)、ライトヘビー(85kg以下)、以下省略(6階級) 勝敗 ○ ギブアップ ○ KO(10カウント) ○ 判定(3名中2名以上) ○ 膠着状態のブレイク × ロープエスケープ × リング外エスケープ 反則 × 金的攻撃 × 目潰し × 噛みつき × 髪を掴む ? 喉を掴む、喉への打撃 × 指関節 × ロープを掴む ○ 拳打ち(オープンフィンガーグローブ) × 頭突き × 肘による打撃 ○ 膝による打撃 ○ 後頭部への打撃 × 脊髄への打撃 ○ つま先蹴り ○ ヒールホールド △ グラウンドポジションへの打撃(×頭部、頚部へのキック) ○ グラウンドの同士での打撃 − パンクラス − 試合時間 10分、15分、20分(延長なし) ランキング チャンピオン、1〜10位 グラウンドポジション 三点接地 or 腹部・背中・臀部の接地 階級 無差別、ライトヘビー(90kg未満80kg以上)、ミドル(80kg未満) 勝敗 ○ ギブアップ × KO(10カウント) ○ 判定(3名中2名以上) ? 膠着状態のブレイク × ロープエスケープ × リング外エスケープ 反則 × 金的攻撃 × 目潰し × 噛みつき × 髪を掴む ? 喉を掴む、喉への打撃 △ 指関節(3本以下は禁止) × ロープを掴む ○ 拳打ち(オープンフィンガーグローブ) × 頭突き × 肘による打撃 ○ 膝による打撃(パッド着用) × 後頭部への打撃 × 脊髄への打撃 × つま先蹴り × ヒールホールド △ グラウンドポジションへの打撃 ×キック ○手(顔面、ボティー) △ グラウンドの同士での打撃(顔面は手のみ) その他 × スタンドでの背を向けた相手への攻撃 − PRIDE − 試合時間 2R(10分、延長5分) ランキング なし グラウンドポジション 四点接地 階級 なし 勝敗 ○ ギブアップ × KO(10カウント) ○ 判定 △ 膠着状態のブレイク(体重差10kg以上の場合のみ) × ロープエスケープ × リング外エスケープ 反則 × 金的攻撃 × 目潰し × 噛みつき × 髪を掴む ○ 喉を掴む、喉への打撃 ○ 指関節 × ロープを掴む ○ 拳打ち(オープンフィンガーグローブ) × 頭突き △ 肘による打撃(×頭部・顔面) ○ 膝による打撃 × 後頭部への打撃 × 脊髄への打撃 ○ つま先蹴り ○ ヒールホールド △ グラウンドポジションへの打撃(頭部・顔面への足による打撃) ○ グラウンド同士での打撃 − 修斗(VTJ) − 試合時間 8分3ラウンド(延長なし) ランキング − グラウンドポジション 足の裏以外が接地 階級 無差別 勝敗 ○ ギブアップ ○ KO(10カウント) × 判定 ? 膠着状態のブレイク × ロープエスケープ × リング外エスケープ 反則 × 金的攻撃 × 目潰し × 噛みつき × 髪を掴む ○ 喉を掴む、喉への打撃 ○ 指関節 × ロープを掴む ○ 拳打ち(オープンフィンガーグローブ) × 頭突き △ 肘による打撃(×頭部・頚部) ○ 膝による打撃 ○ 後頭部への打撃 × 脊髄への打撃 ○ つま先蹴り ○ ヒールホールド ○ グラウンドポジションへの打撃 ○ グラウンド同士での打撃 − UFO − 試合時間 3R(10分・7分・4分、延長なし) ランキング なし グラウンドポジション ルール上の区別なし 階級 なし 勝敗 ○ ギブアップ ○ KO(10カウント) × 判定 × 膠着状態のブレイク × ロープエスケープ × リング外エスケープ 反則 × 金的攻撃 ○ 目潰し ○ 噛みつき ○ 髪を掴む ○ 喉を掴む、喉への打撃 ○ 指関節 ○ ロープを掴む ○ 拳打ち(オープンフィンガーグローブ) × 頭突き △ 肘による打撃(×頭部・顔面) ○ 膝による打撃 ○ 後頭部への打撃 × 脊髄への打撃 ○ つま先蹴り ○ ヒールホールド ○ グラウンドポジションへの打撃 ○ グラウンド同士での打撃 10.おわりに 今回の俯瞰的格闘技ルール論においては、その流れ上、ストロングスタイ ルの見地からプロレスを述べました。 しかし、VTの登場、及びプロレスのインディー団体ようなショー的要素 を極度に全面に押し出した団体の登場によって、格闘技とプロレスは一般フ ァンにおいても大きく二分化され、プロレスをショーだと割り切ってマニア ックな見方をするファンも少なくはありません。 一方、今もなおプロレスに最強を求めるファンと、プロレスの流れを知ら ない一部の格闘技ファンとで終わることのない対立が生じるということはネ ットではしばしば見られることです。(ただし、あくまでの一部。中には両 方を熟知しているまともな格闘技ファンもいるから。また、マニアックなプ ロレスファンは、当然その対立構造には含まれない。) 今回はルールと最強という見地から述べましたが、プロレスを論ずる上に おいては、ショーマンスタイルについて語らないのは片手落ちであり、かつ ストロングスタイルとの「二面的関係」について述べなければ、なぜプロレ スに2つの対立するテーゼが存在し、それが止揚されることとなったのかを 理解することはできないでしょう。 またストロングスタイルの説明も本題とは異なるため、さらっと説明して 通過しおり、その内容は不充分です。 よって、ここでのプロレス論はまだ不完全であり、いずれ発表されるであ ろう「バランス論的プロレス論」によって語ることなるということをここに お断りしておきます。 #ふ〜っ、やっと終わった・・。疲れたわ、ほんまに。 #文章量が少ない割には、情報処理が大変だった。