以下の文章は、K−1公式ページへメールで送ったものです。
K−1事務局から、感謝の返信をいただきました。

#その後、石井館長と佐竹選手の話し合いにより和解が成立し、
#佐竹選手は独立して、いろんな団体で戦うことになりました。
#今後の活躍を期待したいと思います。

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第一部 佐竹選手の言動に対する意見書(1999.10)

 佐竹選手のK−1離脱の問題、及びそれに関する発言に関して、
試合の判定の問題以前に、大きな問題を感じていますので、
意見を述べさせていただきます。

1 ジャッジと進退問題との関連

 まず、今回の件は”ジャッジの問題”であり、それと進退の問題は本来は
別問題です。それがK−1離脱ということになるのは、審判が意図的に
佐竹選手の負けと判定していると、佐竹選手が考えているからということに
なります。
 それは、K−1の公正さ、及び石井館長の人格を否定しているのも同然
であり、非常に問題のある発言です。
 これは試合後、審判ではなく石井館長に抗議している点、
「でき(レース)でしょ?」という佐竹選手の発言からしても明らかで
しょう。

 しかし、本当にそう見なせるだけの根拠があるのか?
 慎重に考えた上での判断をしたのか?
 これには非常に疑問があります。

 もしそれが佐竹選手の思い込みであり、行き過ぎた発言であったの
なら、その影響は佐竹選手個人だけの問題ではなく、K−1全体に
及ぶものであり、非常に軽率な発言であるということになります。

 では、それに関して1つ1つ検討していきます。


2 公正でないという根拠について

 まず、判定が公正でないという場合、それを主張する側が”その根拠の
提示”が求められます。
 なぜならば、公正であるという証明は完全にはできないからです。
(まさかK−1関係者を24時間監視するなんてことはできないでしょう。)

 しかし、佐竹選手の発言は、今までの自分の試合の判定に対する不服
を述べているだけで、それでは”根拠不充分”といえます。


3 佐竹選手を不利にするメリットは存在するのか?

 次に、公正でないという”印象”を抱いた場合、それによって
得られるメリットがあるかどうかを検討しなければなりません。

 佐竹VS武蔵で、武蔵を有利に判定するのは、世代交代した方が
K−1にとってメリットがあるからでしょうか?
 佐竹選手はそう考えている(自分を邪魔者扱いされている)よう
ですが、現在も佐竹人気は衰えていないですし、今回の件でも、
「佐竹選手がK−1を離脱しないでほしい」という声がBBSでは
多くあがっています。
 つまり、佐竹選手が邪魔者扱いされているというのは、彼の
妄想である可能性が高いといえるでしょう。

 ベルナルドVS佐竹はどうか? バッティングでダウンをとられ
たのは、単にレフェリーが見誤っただけでしょう。
 では、佐竹よりベルナルドを有利に判定する理由は何か?
 それが述べられていない以上、根拠とはなりえないでしょう。

 それより前にさかのぼると、VSグラウベでは判定勝ち、VS中迫
も判定勝ち、VSモーリスでは判定ドローで、「オレの試合のジャッジ
はいつもこんなの」と言っているわりには、今回の試合以外で1例しか
例が挙がっていません。


4 判定の問題の一般性

 佐竹選手以外の試合ではどうかと検討すると、判定に疑問が出た試合、
あるいは負けた側が納得していない例は、ここ1年の試合だけでも、
中迫VS安部、武蔵VS天田、角田VSダンカン、アンディVSグレコ、
ヴァン・ダムVSスケルトン、ジーヨVSベナゾーズと数多くあります。
 あとグレコVSベルナルドでも、10カウントいったのではないか
という疑問があります。

 ベルナルドVSロニー・セフォー、アーツVSグレコでは、
10カウント前にストップがかかっています。
 これは、レフェリーが選手のダメージを考慮に入れてのことだと思います
が、ロニーは休むために膝をついたと言っていますし、グレコもダメージ
はあまりなかったと言っています。グレコが倒れる時に、ふらついていた
のは、ダウンをとられまいと踏ん張っていたためで、あっさり倒れていた
ら逆にストップがかからなかったかもしれません。
(この点に関してのレフェリーの判断は仕方がないとは思いますが。)

 では、勝った選手を有利に判定する理由は何でしょうか?
 「正道会館または空手家を有利としている」というのは理由になり
ません。なぜならば、ベルナルドVS佐竹も、自分を不利としている
と考えているからです。

 つまり、判定が納得できないから邪魔者扱いされているというのは、
あくまでも個人的な判断に過ぎず、もっと全体的な判断をすべきであり、
今回の件も含めて”判定自体がもつ問題点”を検討すべきでしょう。


5 建設的思考について

 では、判定自体がかかえる問題であるならば、それを”解決する方向”で
検討すべきであって、佐竹選手がK−1を去ったところで何の解決にも
なりません。
 K−1以外のリングでも、判定に疑問が生じれば、また佐竹選手は
「自分は邪魔者扱いされている」と考えることでしょう。
 結局どこへいっても、この問題は解決しないと思います。

 もし抗議するのなら、「判定方法を改善しないのなら、試合には
出ない」とすべきであって、「二度と出ない」とするのは実に早急すぎる
判断です。
 佐竹選手が、以前から問題を感じているのなら、その時点で抗議する
とか、マスコミを使って抗議すべきであって、その問題は他の選手の試合
にもかかわる問題ですから、それを放置してK−1を去ってしまうのは、
自己中心的な判断ではないかと思います。

 むしろ佐竹選手は正道会館側ですし、日本のトップとして発言力は
あるのでしょうから、もっと建設的かつ全体的な視点で考え、発言すべき
でしょう。
 それとも以前に石井館長に抗議したり、意見を言ったりして、受け入れ
なかった経緯でもあるのでしょうか?
 少なくとも、今回の発言は感情優位で、じっくりと考えた上での慎重な
発言だとは到底思えません。


6 石井館長の判断について

 中迫VS安部の判定で疑惑がもたれましたが、石井館長は「安部の勝ち
だと思った」と言っていますし、それがあってのことではないかと思います
が、佐竹VS武蔵では、日本人ジャッジではなく、外国人にしています。

 今回の判定についても、「正直なところ、あんなに差がつく内容じゃない。
自分はドローで延長になると思った」と言っていますし、私もそれには
同意見です。実際、TV観戦中に判定が出る前に、ドローで延長だと私は
予想していました。
 そして、今後のことに関しても石井館長は、「正しいジャッジをできる
制度が必要だ」と言っています。

 つまり、マスコミを通じて得られる情報の範囲では、石井館長は非常に
”中立的で誠意ある判断”をしており、それがなぜ佐竹選手に伝わらないの
かが非常に疑問です。
 それでも、石井館長を疑うのなら、(どちらの言い分が正しいかは別に
して)K−1を去るしかないでしょう。


7 主催者の立場からの考察

 では、もし自分が主催者の立場だったらどうでしょう?
 果たして、裏でジャッジに手を回すようなことをするでしょうか?
 もし、そのようなことを行ってそれがバレてしまったら、今まで築きあげ
てきたものが、あっという間に崩壊してしまいます。

 ましてや、今回の佐竹VS武蔵のジャッジは、3人とも外国人で、
国も3人とも違います。
 もしそのようなことをするのなら、口の固さという点で信頼できる人
でないと、現実的には無理です。つまり、外国人では難しいでしょう。

 つまり、不正を行うにしても、そう簡単にできるものではなく、
それが発覚した場合のリスクがあまにも大きいのです。
 そこまでして、武蔵を勝たせるだけのメリットが全く見当たりません。
 そもそも日本と世界の差はまだまだ大きいのですから、そんなことに
気を回す時間があるのなら、私だったら選手の強化の方へ意識を向けます。

 もちろんリスク以前に、道義的に見て、選手の努力を無にするような
ことをすべきではないでしょう。ですから、この考察はあくまでも可能性
の問題として、そのような不正は生じにくいということです。


8 ポイント差について

 2R以降すべて武蔵選手がポイントをとっているというのは、僅差を
ポイント差とし過ぎだと思います。
 しかし、ボクシングでは各ラウンドのポイント差をしっかりとつけると
いう方針らしい(タイトルマッチのTV放送ではそう言っていた)ので、
手数で武蔵にポイントをつけるというのは、意図的に武蔵を有利としている
とはいえないと思います。
 これは、日本人ジャッジは10―10を多くつける傾向にあるが、
外国人ジャッジはなるべく優劣をつけるということに尽きるでしょう。

 さらに、武蔵はダウンしてすぐ立ち上がっていて、ほとんどダメージが
ないのですから、ダウンなら必ず2ポイント減というのも考え直す必要が
あります。打撃が当たってもバランスを崩さなかったら、倒れなかった場合
と、打撃によるダメージが大きく、崩れ落ちるように倒れる場合とで
同じにしてしまうのは問題だからです。

 「トム・ハーリック(チャクリキジム会長)やホーストも、2点差で
佐竹の勝ちと言っていた」らしいですが、これは2R以降を10−10
と判定した場合の結果といえるでしょう。


9 ダメージの主観性について

 佐竹選手は「武蔵のミドルキックは全然効いていない」と言っていますが、
そういう主観を判定に持ち込むのは無理だと思います。
 なぜなら、それを客観的に判定する方法がないからです。

 さらに、「最初から武蔵の攻撃を受けに出て、オレには通用しないことを
見せたんだ」と言うのは、実にナンセンスな発言です。
 それは、ダメージの大きさは外部からしか判断できず、選手の実際にどの
程度ダメージを受けたかを判断するのは原理的に不可能だからです。
 ですから、ジャッジの1人が「クリーンヒットの数と攻撃が当たった時の
表情を判断して武蔵の方が上回った」と言っているように、表情などを考慮
に入れるのは当然のことです。

 そのような判断をダメだと主張するのなら、判定自体をなくすしか方法は
ないでしょう。

 確かに当たっていても効いていない場合はあると思います。実際、佐竹
選手はミドルキックを受ける時に体を引いていましたから、それによって
ダメージをほとんど受けていないのではないかと推測されます。

 にもかかわらず、佐竹選手が相手に与えたダメージの大きさを主張する
のは大きな矛盾です。
 武蔵選手のダメージが大きいというのを、佐竹選手はどのような方法で
判定するというのでしょうか?


10 判定の統一について

 佐竹選手は、「3人とも同じ判定なんて…。審判の出来レースでしょ」
と言っていますが、プロボクシングのホリフィールドVSルイスでは、
三者三様(ホリフィールドの勝ち1人、ルイスの勝ち1人、ドロー1人)で、
判定に疑惑がかかっていますから、判定が同じかどうかは根拠にはなって
いません。
 むしろ、判定の基準が統一されているから、一致したとも考えられ
ます。
 事前にジャッジ間の判定に関する確認の話し合いが行われているか
どうかは、私は知りませんが。


11 最後に

 私は決して、佐竹選手否定派ではありません。あくまでも客観的に
慎重な判断を佐竹選手に求めるだけです。
 むしろ、選手としては科学的なトレーニングを取り入れて肉体改造を
したり、技の研究をしたりして、これからどれほど強くなっていくかを
期待していました。それに関してはファンの多くも同意見ではないかと
思います。

 それに加えて、打倒佐竹ではなく、打倒アーツ、打倒アンディといった
世界のトップに日本の選手のレベルが追いつくことが重要と考える佐竹
選手の考えには賛成です。
 しかし、ファンの関心が「誰が日本人No.1か?」ということに集ま
っていることも事実ですから、佐竹VS武蔵が組まれるのも当然のことと
いえるでしょう。

 そして、佐竹選手がこれまで様々な努力をしてきたにもかかわらず、
今回のような感情的な判断で発言をしたということは、強さを求めるが故に
佐竹選手は”格闘家として大事なもの”を見失ってしまったのではないか
と私は思うのです。
 もちろん、格闘家はこうあるべき、ということを決め付けることはでき
ません。
 しかし、佐竹選手は戦いを通じて、K−1や館長に対して、不信感を
募らせ、結果のみを求めるようになってしまったのではないでしょうか?

 確かに結果は重要であり、それが正当に評価されなければ、厳しい
トレーニングをする意味がないでしょう。
 しかし、佐竹選手は格闘家として、それ以上に大事なものを見失って
しまったのではないでしょうか?
 何のための戦いか? それをもう1度考え直すべきではないでしょうか?


 真の敵は、自己の内側に潜んでいる。
 良きライバルはそれを気づかせてくれる大切な友である。


 − 第一部 終 −